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15年前の職員室を再現!先生の個性強めな机が並ぶ体験展示「あの職員室」に行ってきた

15年前の職員室を再現した体験型特別展示「あの職員室」(撮影:編集部)

近年、学校跡地を利活用した企画が各地で生まれているが、東京・飯田橋の学校跡地では、「あの職員室」という体験型展示が開催中だ。当初は11月30日までの予定だったが、好評につき会期が12月7日(日)まで延長された。

今回のコンセプトは「職員室には『学校のすべて』がある」。15年前の中学校の職員室を、机やロッカーの中身まで作り込み、まるで5分前まで先生が座っていたかのようなリアリティで再現している。その「生々しさ」を体験してきたので、写真と共にお届けしたい。

本企画を手掛けたのはCHOCOLATE Inc.で、同社は昨年、1万組以上のキャンセル待ちが出たサントリーのイベント「あの夏休み自販機」も手掛けた(画像:公式サイトより)

15年前の職員室にタイムスリップ、こだわり尽くした空間演出

舞台は、「七橋中学校」という架空の中学校の職員室。最盛期には3学年で454人が通う賑やかな学校だったが、2010年に閉校し、56年の歴史に幕を閉じた。来場者は、閉校直前の一年間に起きた出来事と、生徒と先生のやりとりを、美術セットと膨大な紙資料から読み解いていく。

時代設定について、同企画を担当したCHOCOLATE Inc.の小野寺正人氏は「中学3年生は、自我を確立しつつも、周りの環境に一番揺さぶられる年代です。廃校という大きな出来事で、生徒たちがどう動いたのかを描きたいと思い、15年前の中学校を選びました」と語った。

生徒が作った壁新聞や、手書きのイラストから当時の様子が伝わってくる(撮影:編集部)

入室のルールは、ふだんの学校と同じだ。ドアの前で一度立ち止まり、ノックしてから「失礼します」と声をかける。中から「どうぞー」と返事が聞こえ、扉を開けた瞬間から体験が始まる。

職員室の入口となる扉も、今回の展示に合わせて新たに設置されたもの。昔からここにあったかのように空間になじんでいる(撮影:編集部)

一歩足を踏み入れると、まず物量に圧倒される。黒板の前に並ぶ教員机、壁一面のロッカー、積み上がったプリントや教科書。机やキャビネット類は、実際の廃校から運び込んだ実物で、床のカーペットも「使い込まれた感じ」が出るように、あえて汚れや色むらが演出されているという。

先生の椅子に上着がかかっている様子も再現(出典:CHOCOLATE Inc.)
学校の職員室ではおなじみの「行事予定表の黒板」(撮影:編集部)
床のダンボールも忠実に再現。黒板用分度器はとある県の廃校に置かれていたもの(撮影:編集部)

同企画の空間デザインや美術演出を担うパートナーとして参画した株式会社博展の浅井玲央氏は、「象徴としての『職員室っぽいモチーフ』を並べるのではなく、人が使った痕跡を残すことを大切にしました」と語る。

校長先生の机。引き出しを「勝手に開ける」背徳感を味わう(撮影:編集部)
電話を取ることが多い教頭先生の机には、メモ書きの付箋がびっしりと貼られている(撮影:編集部)

会場には、ふわりとコーヒーの香りが漂う。忙しい先生が一息ついた気配まで感じられるような、五感に訴えるつくりだ。

コーヒーは1人1日3杯まで(撮影:編集部)

机からにじみ出る、12人の先生たちのキャラクター

展示を見始める前に、来場者は職員室の座席表を受け取る。そこには、12人の先生の担当教科や、展示物の一例が書かれている。

職員室の座席表。黄色の丸いステッカーが貼られた展示は、自由に手に取って鑑賞できる(撮影:編集部)

先生たちの机の中で、特に強い存在感を放っていたのが、生徒指導を担当する保健体育科の山本信一先生の机。生徒から没収したアイテムや、指導ファイル、愛犬の写真など情報量が多い。

生徒たちから没収したアイテムたち
「教室の机の上にラジコンらしきものを置いているの見つけて没収しました。本人はあそんでいたものがそのままリュックに入っていたと話しています」と生徒指導個人カードに書かれている。こちらは手に取って読むことができる

没収品には、15年前の空気がぎゅっと詰まっている。生徒から没収したガラケーやiPod、iPhone、香水「ライオンハート」を染み込ませたドクターグリップ、プロフィール帳など、平成らしさを感じさせるアイテムが並んでいた。

iPod nanoやiPhone、ソニー・エリクソン製のスライド式携帯電話も、没収品として並んでいた(撮影:編集部)
香水は蓋を開けて香りをかぐことも可能。ちなみに生徒の反省文は全然反省していなかった…

社会科でバスケットボール部顧問の森真由美先生のスペースは、ピンクのファイルや小物で統一され、真田家の名言のポストイットがあちこちに貼られている。歴史好きで、おしゃべりも熱くなりがちな先生の姿が目に浮かぶ。

好きな色で統一されたファイルや、生徒から貰った寄せ書きが並ぶ(撮影:編集部)

机の上に並ぶ教科書や教材も、当時実際に使われていたものだ。授業で配付するプリント類も、監修を務めた先生の協力のもと再現している。たとえば、歴史の発展的な授業で用いる『荒巻の新世界史の見取り図』は、展示準備が進む中で、最後の段階で追加されたアイテムのひとつだという。

理科の清水健先生の机には、本やプリントが高く積み上がり、今にも雪崩を起こしそうだ。隣の先生から「もう少し、机を片付けていただけないでしょうか」と添えられた付箋が、職員室の日常の空気をそのまま切り取っている。

雪崩が起きそうなほど本が積まれた机(撮影:編集部)
付箋でのやりとりは「先生あるある」から(撮影:編集部)

そして、いくつかの机に共通しているのが、最下段の深い引き出しに隠された「食糧庫」だ。値引きシールの付いたパン、カップ麺、チョコレートバーなど、残業のお供になりそうな食品がこっそりストックされている。

一番下の引き出しには大量のカップ麺をストック(撮影:編集部)

余談だが、筆者のお気に入りは、家庭科の諏訪久美子先生の机。引き出しには、推しアイドルの写真がこっそりと隠されていた。

架空のアイドルのブロマイドが引き出しの中に隠れていた(撮影:編集部)
生徒たちからの色紙も細かく再現(撮影:編集部)

散りばめられた手がかり、七橋中の閉校にまつわる謎とは?

先生たちのロッカーも、見どころの一つだ。山本先生のロッカーには、愛犬の写真がたっぷり。家庭科の諏訪先生のロッカーには、いつでも“現場”に飛び出していけるよう推し活グッズが詰め込まれている。

教頭先生のロッカーには、「校長になる」と書かれた書が掲げられていた(撮影:編集部)

注目すべきは、誰かのロッカーに置かれた、ダイヤル式の金庫だ。鍵の暗証番号は、職員室のどこかに散りばめられたヒントを組み合わせることで導き出せる仕掛けだ。

金庫の中には、学校の“真相”を知る手掛かりが…(撮影:編集部)
教室や特別教室の鍵がぎっしり掛けられた「キーボックス」もリアル(撮影:編集部)

廃校直前の七橋中で、いったい何が起こっていたのか。各所に隠されたヒントを辿りながら、物語を考察する来場者も多いという。また、職員室の奥には、生徒の1年間の学級日誌と生活ノートが掲示されており、閉校間際の生徒たちの想いに触れることができる。

壁一面に貼られた学級日誌と、生徒3人分の生活ノート

40分の鑑賞を終えると、来場者は元気よく「さようなら」と挨拶をして、職員室を後にする。あまりの情報量の多さに、リピーターが多いということにも納得だ。

「あの職員室」の会期は、12月7日(日)まで。これから訪れる来場者に向けて、小野寺氏は次のように語る。

「ぜひ、物ではなく、人を追いかけるつもりで見ていただきたいです。机の上のプリントや付箋、ロッカーの中身、ノートに残った一行のメモなどから、先生や生徒を一人の人間として考察していくことで、職員室全体が、単なるセットではなく『人間ドラマのつまった物語』として立ち上がってくると思います。お気に入りの一人を決めて、その人の足跡を追うような形で楽しんでいただけたらうれしいです」

ICT化やフリーアドレス化が進み、学校の職員室も姿を変えつつある。展示を楽しみながら、時が経っても変わらない先生と生徒のつながりや、「職員室あるある」について会話に花を咲かせるのも楽しいだろう。

「あの職員室」開催概要

開催期間:2025年11月15日(土)~12月7日(日)
開催時間:10時〜21時 ※各20分ごとに入場
体験所要時間:40分程度(目安)
会場:飯田橋 学校跡地(東京都新宿区揚場町2-28)
アクセス:飯田橋駅徒歩2分 B4b出口すぐ
料金:[土日祝]2,500円/[平日]2,300円(いずれも税込)
※事前予約チケット制

展示の内容はあくまでフィクションであり、実在の学校・人物・出来事とは関係はありません

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやアプリを中心としたゲーム雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは小学生兄弟の母。親目線&ゲーマー視点でインクルーシブ教育やエデュテインメントを中心に教育ICTの分野に取り組んでいく。