レポート

イベント・セミナー

学びや思考をAIで深める!現場から生まれたGemini活用術【授業・学び編】

Gemini for Education 活用事例コンテスト(後編)

Googleは2026年5月~7月に「 Gemini for Education 活用事例コンテスト 」を開催し、8月にGoogle渋谷オフィスで表彰式を行った。全国から約370件もの多彩な事例が寄せられ、優秀賞には11事例が選ばれた。AIに任せきりにしたり、答えを求めたりするのではなく、子供たちのモチベーションを高める仕掛けや、学びを深めるツールとしてGeminiを授業に組み込んでいるのが、今回の受賞事例の大きな特徴だ。

前編の「校務・学校DX編」に続き、後編では「授業・学び編」として、小学校から中学・高校・大学までの4事例をピックアップ。AIを使い始めたばかりの先生でも気軽に試せる汎用性の高い事例もあるので、ぜひ参考にしていただきたい。

140人全員を「AI伴走者」でサポート! 答えを教えない個別最適な学び

青森市立浦町中学校 本間史祥先生

事例①:小中高部門・学習・授業
青森市立浦町中学校 本間史祥先生

応募タイトル:
140名の個別最適な学びを支える AI伴走者 -AI本間先生-

課題と背景
・技術科の授業において、問題把握や課題設定、設計・計画の段階で学習停滞が発生しやすい
・教員一人が指導できる人数に限りがあり、特定の生徒に対応している間、他の生徒を待たせてしまう

実践事例:
学習指導要領と評価基準を読み込ませたカスタムGem「AI本間先生」を作成し、Google Classroomに配備 。プロンプトに「安易に解決策を教えず、生徒自身が導き出せるよう問いかけて」という工夫を施し、生徒がいつでも個別に相談できる環境を実現した。

「安易に解決策を教えない」よう設定した「AI本間先生」のプロンプト

「授業中、たくさんの質問を受けるなかで、全員に対応できないことに歯がゆい思いをしていた」という気持ちからスタートしたこの取り組み。自分と同じように「安易に答えを与えない」ことにこだわってGemの設定を行ったという。

中学2年生の「より安全安心なチャットアプリの作成」という課題で「AI本間先生」を導入したところ、作業が完全に止まってしまう生徒がゼロになり、140名中120名が、自力で課題設定から設計まで到達することができた。

また、AIが誤った回答を出したことを「チャンス」と捉え、「なぜAIは間違えるのか」を解説し、失敗をAIリテラシー向上やファクトチェックの学びに転換した。「子供たちとやりとりしてきた経験をもとに、丁寧にプロンプトに落とし込んでいくことで、どの教科でも応用することができる」と、本間先生は語った。

表彰式では、Google for Educationメンバーから「解決策を返さず、生徒の思考を促すプロンプト設定などの工夫が素晴らしい」と講評が寄せられた。

AIの誤答をきっかけに、「なぜ間違えるのか」を伝え、自分で確かめる姿勢を育てた

Gemini初心者の先生が挑戦! 生徒の非認知能力を可視化

芝浦工業大學柏中学高等学校 荒牧孝一郎先生

事例②: 小中高部門・課外活動
芝浦工業大學柏中学高等学校 荒牧孝一郎先生

応募タイトル:
アントレマインドセット成長可視化システム 世界史×アントレプレナーシップ~Geminiをパートナーとした実践~

課題と背景
・世界史の授業で批判的思考力や挑戦心などの「非認知能力」を育みたいが、ペーパーテストでは測定できず、生徒自身も成長を自覚しづらい
・生徒一人ひとりの変化を手作業で分析し、個別フィードバックを届けるには膨大な労力がかかる

実践事例:
文部科学省の「日本版 EntreComp v1 ガイド」などを学習させたGeminiを活用し、非認知能力を測定する6つの資質と12の質問を定義。生徒が Googleフォームで回答すると、GASとGeminiが連携して、レーダーチャートとパーソナライズされた「自分だけの成長レポート」を自動送信するシステムを構築 した。

測定する6つの資質能力

世界史の教員である荒牧先生は、「アントレプレナーシップがどれだけ生徒の中に醸成されているかをはかりたい」と考え、Geminiと対話を重ねてシステムをつくり上げた。「4月から本格的にGeminiを使い始めた」というAI初心者で、「コードや専門用語もわからない。初めてスプレッドシートを使うので、丁寧に教えてほしい」とGeminiに質問をし、システムを完成させた。

フォームに回答すると、過去のデータとの比較や、スコアの変化に応じた励ましのコメントが、即座に生徒へ届く。「項目の高いものはたくさん褒めて、低いものはアドバイスをする」という方針により、生徒一人ひとりの強みが認められ、心理的安全性が高まったという。その結果、失敗を恐れずに問いを立てる力も表れるようになった。

表彰式では、Google for Educationメンバーから「初めて本格的に使ってみたというご経験から、『誰でも使える』というコンテストのテーマのハードルを大きく下げていただいた。可視化しにくい非認知能力にアプローチした点も、今後の良い事例になる」と講評が寄せられた。

生徒に自動で届く「マインドセット成長レポート」。挑戦心やレジリエンスをレーダーチャートで可視化する

「疑う力」の育成へ! あえてフェイクニュースを作る体験型情報リテラシー

桐蔭学園小学校 松田 慧先生

事例③: 小中高部門・課外活動
桐蔭学園小学校 松田 慧先生

応募タイトル:
情報探究「本物そっくりの嘘」~生成AIネイティブ世代のための情報リテラシー~

課題と背景
・禁じるのではなく、「作り手」としてフェイクニュースを作る過程から、児童の判断力を養いたい
・「発信者の責任」をはじめとしたデジタルシティズンシップを、児童に実際に体験して学ばせるのは難しい

実践事例:
希望制の課外活動「でるくい」というの情報探究の講座で、 児童自身が作り手として「本物そっくりのフェイクニュース・画像」を作成する授業を実施 。だます側の工夫を試行錯誤する体験を通じて、発信者の責任やデジタルシティズンシップを主体的に学ぶことができた。

児童は嘘の見出しを考え、Geminiで証拠写真を生成。バレないよう試行錯誤を重ねた

単元を貫く問いは「だまされないための心構えとは」。児童は「どうやって人をだますか」という問いを考えながら、本物らしく見える条件や、プロンプトの工夫を深めていく。その試行錯誤の過程で、「だますために使っていた工夫は、そのまま見抜くための着眼点になる」という大きな気づきにつながったという。

「作り手を経験して初めて、子供たちは『見分ける』から『疑う』に一つ先に進む。『嘘はダメ』だけでは得られなかった気づきが、今回の成果だった」と、松田先生は発表で語った。

表彰式では、Google for Educationメンバーから「『フェイクニュースを見抜く』というテーマで、あえて作り手を体験させるアプローチが秀逸。説明の難しいデジタルシティズンシップをどう教えるか、その方法としても学びになった」と講評が寄せられた。

「作れる」という実感が、発信の責任を自分ごとにする

全員の教科書が違う! Deep Researchで「持ち寄る」反転授業

鎌倉女子大学 古川 俊先生

事例④: 大学部門・学習・授業
鎌倉女子大学 古川 俊先生

応募タイトル:
教科書が全員違う授業 Geminiで変わる『教わる』から『持ち寄る』学びへ

課題と背景
・大学の講義型授業では専門知識の伝達に大半の時間を奪われ、対話やディスカッションの時間が圧倒的に不足していた
・従来の事前学習(反転授業)では学生のインプット負担が大きく、定着しにくいという課題があった

実践事例:
「子どもとメディア環境」の授業において、 学生が事前にGeminiの「Deep Research」機能で、最新の事例や多角的な論点を調査し、自分だけの「オリジナル教科書」を作成 。事前インプットを効率化することで、対面授業を「知識の講義」から「各自が持ち寄った情報に基づくディスカッション」の時間に変えることで、より深い学びが実現できた。

Deep Researchで、ニュースや論文、統計データなどを調べ、自分だけの教科書にまとめる

この事例の大きな特徴は、学生一人ひとりの教科書が異なる点だ。学生は、Deep Researchでまとめたドキュメントを、インフォグラフィックや音声解説、スライドなどに変換して授業に持ち寄る。「通学中に音声解説を聞いて」といった声掛けもしているという。

「調べたソースが異なることで、『そんな見方もあるんだ』という良いディスカッションにつながっている」と、古川先生は話す。AIを学びに取り入れたことで、講義を聴くだけの受動的な学びから、対話を重ねて問いを深める能動的な学びへと大きく変化した。なお、この取り組みは、都留文科大学の野中 潤教授の実践を参考にしたという。

表彰式では、Google for Educationメンバーから「大学で課題とされていた反転授業で、Geminiを上手に活用されている。全15回の授業を通じて一貫して活用されており、さまざまな授業のモデルになり得る」と講評が寄せられた。

自分だけの教科書を、Gemini Notebookでマインドマップや音声解説、スライドなどに変換して学ぶ

教育現場の可能性を広げる、その他の優秀賞事例

今回、すべての発表を詳細に紹介できなかったが、そのほかにも、教育現場の可能性を広げる、以下の素晴らしい実践が表彰された。

・札幌市立南の沢小学校 教務主任 半田尚嗣先生
・応募タイトル: 学ぶ意義を自覚し、自分ごととして考えを深めていく保健の学習(病気の予防)〜教師力 × テクノロジーの相乗効果で拓く 未来の教室〜

6年生の保健「病気の予防」という単元で、Gemini Notebookを活用して学年共通の動画教材を作成した。さらに、Google フォームで集めた児童アンケートをもとに専用の Gem から、児童が「生活習慣病」を自分ごととして捉え、探究心を高めることにつながる架空の人物イラスト(6名)を生成し、課題探究的な学習を行うことができた。

・The Grange Institution Technology Teacher 片野祐斗先生
・応募タイトル: 消費者から創造者へ Geminiがひらく、小学生のゲーム制作プロジェクト

シンガポールのインターナショナルスクールにおける事例。課外活動の「デジタルクラブ」で、対話を通してアイデアを整理できる、ゲーム制作用のカスタムGemを作成。GeminiのCanvas機能でゲームを制作した後、共有からフィードバックまでを一貫した制作サイクルとして回している。

・埼玉県立熊谷農業高等学校 針岡 萌先生
・応募タイトル: AI時代の精読・言語化サイクル 〜「不完全な絵」を正すデバッグ学習〜

「内面の気づきを論理的に説明する言語化が苦手」という生徒の課題に対し、学校のマスコットをモデルにしたカスタムGem「うしまる画像Pro」を開発した。「特定の合言葉を言わないと画像を生成しない」といった仕掛けを施し、生徒が何度も教科書を読み返す「教育的な不自由さ」を組み込んでいる。

前編・後編で紹介した受賞事例に共通するのは、どれも現場の先生が日々感じていた「困った」という課題感や、「もっとより良くしたい」という想いから生まれていることだ。しかも多くは、特別なプログラミングの知識に頼らず、使い慣れたツールの中で実現されていることも印象的だった。

今後、各受賞事例の詳しい取り組み内容やインタビュー記事が、 公式サイト で順次公開される予定だという。ぜひそちらの記事もチェックしてほしい。

相川いずみ

教育ライター/編集者。AIをはじめとした教育におけるデジタル活用を中心に、全国の学校を取材・執筆を行っている。一児の母としてPTAでのICT活用や、親子向けのプログラミング体験教室を開催した他、現在は、シニア向けのスマホサポートを行う渋谷区デジタル活用支援員としても活動中。