レポート

教育実践・事例

生成AIを教育の「伴走者」へ、教員9人が活用アイデアを披露

「Gemini for Education アイデアソン 2026 Showcase」レポート

地区大会を勝ち抜いた教員9名が、学びや校務をアップデートする生成AIの活用アイデアを披露(撮影:編集部、以下同じく)

 生成AIツール「Gemini」や、高度な分析機能を備えた「Gemini Notebook(旧NotebookLM)」をどのように活用し、学びや校務をアップデートするか。その創意工夫を凝らしたアイデアを競う「Gemini for Education アイデアソン 2026 Showcase」が2026年8月7日に東京・渋谷のGoogleオフィスで開催された。

 同イベントは、福岡・大阪・札幌の地区大会を勝ち抜いた教員が集まる「生成AI活用の全国大会」。各会場で最優秀賞に選ばれた9名の現役教員が登壇し、それぞれのアイデアを披露している。

AIは「調べるツール」から「学ぶ伴走者」へ

Google for Education 営業企画部 部長 飯塚祐一氏

 イベントの冒頭では、Google for Education 営業企画部 部長の飯塚祐一氏があいさつに立ち、最新の生成AIツールがもたらす新しい学びの形を提示した。それは、6月に発表されたばかりの学習支援機能の「 学習ノートブック 」で、現在は教育用アカウントでは利用できないが、個人アカウントで提供を開始している。

6月に発表した「学習ノートブック(Study Notebooks)」

 飯塚氏は「学習ノートブックはGeminiに統合されたパーソナルコーチのような存在。Gemini Notebookが膨大な資料を根拠に要約や分析を行う『調べるAI』であるのに対し、学習ノートブックはアップロードされた情報からクイズを生成し、 個々の理解度から最適なレッスンを提供する『学ぶAI』 である」と述べた。

学習ノートブックとGemini Notebookの違い
学習ノートブックで「学ぶ」プロセスを再定義

 飯塚氏は「学習ノートブックがもたらす最大の価値は、生徒の学ぶプロセスそのものを再定義する点にある」とし、AIが正解を出すだけのツールから、学びの目標に向かって適切な問いを投げかける「伴走者」へと進化したことを強調している。

個別最適な学びを支えるアイデアが集結

 イベントのメインとなる発表は、前半と後半に分かれ、発表とディスカッションを行っている。前半のテーマは「学習者の個別最適な学びを支える」で、4名の教員が発表した。

 「問いラボ」を発表した長崎県南山中学高等学校の徳田憲一郎氏は、Google Apps Script(GAS)を活用し、グループワーク中に 生徒が考えていることを可視化するアプリ を作成した。生徒は、授業レジュメを読み込みながら、「モヤモヤした問い」をリアルタイムでストック・共有可能だ。授業の終盤に、教員の操作で「問いモード」から「振り返りモード」へ一括変換できるなど、現場のニーズに即した機能を盛り込んだ。

「問いラボ」を発表した長崎県南山中学高等学校 教諭 徳田憲一郎氏
「グループワークで生徒が一生懸命考えていることが可視化できない」ということが出発点
生徒が自分の「モヤモヤ・問い」を書き込めるほか、ノートの画像も保存可能
授業中に生徒の問いをクラスで共有できるようにして、授業の最後にも振り返りができる
スプレッドシートに振り返りや教員のコメントがストックされる

 「みんな繋がる!『体育の輪』」を発表した北九州市立中原中学校の後藤嵩裕氏は、「体育嫌いをなくしたい」という思いから 体育の授業における「振り返り」 に着目。紙の振り返りによる情報の分断を防ぐため、「いいね」やコメント機能を備えたポータルサイトを構築。他者の工夫を称え合うことで感情のつまずきをケアし、生徒同士が学び合える環境を整えている。

「みんな繋がる!『体育の輪』」を発表した北九州市立中原中学校 教諭 後藤嵩裕氏
体育が嫌いな生徒は、「人と比べて恥ずかしい」「失敗を笑われる」「チームのお荷物になる恐怖」という感情のつまずきがあると分析
チャレンジしたプロセスを重視し、みんなが振り返りを見られるようスプレッドシートに蓄積したデータを表示できるポータルサイトを開発
クラスメイトの素晴らしいところや、他者を評価するコメントを入力できる
「体育の学習の最後に、生徒同士の相互参照ができる、コメントなどができるサイトを作成してください」とプロンプトで指示し、教員の作業を軽減

 「つぶやきアセスメント」を発表した福岡女子商業高等学校の徳永道昭氏は、 特別支援における行動記録の負担を軽減 するツールを紹介した。徳永氏は特別支援教室の担任ではないが、アイデアソンで一緒だった教員の縁からツールを作成している。5秒ほどの音声メモをGeminiに送ると、応用行動分析に基づいて客観的なデータに整理し、スプレッドシートに自動転記。主観や感情を排除した記録が可能になり、保護者対応や若手育成の強力なサポートツールになるという。

「つぶやきアセスメント」を発表する福岡女子商業高等学校 教諭 徳永道昭氏
行動記録に時間がかかることや、主観や感情が入ることを一気に解決
行動記録を音声などで入力した後、アドバイスが表示される仕組みに
「前提条件」「先行事象」「行動」「対応」「結果」で情報を整理
整理された情報を1つのスプレッドシートに蓄積

 「振り返りをふりカエル」を発表した福岡教育大学附属小倉中学校の吉村祐介氏は、振り返りを「提出して終わり」にしないための音声ポッドキャストアプリを開発した。生徒が録音した音声がアーカイブされ、振り返りの回数に応じてキャラクターが成長するゲーミフィケーションの要素を取り入れている。文字では表しきれない 「感情」を声の記録として残す ことで、未来の自分へのメッセージとする狙いがあるという。

「振り返りをふりカエル」を発表した福岡教育大学附属小倉中学校 教諭 吉村祐介氏
振り返りが「教員のため」になっていないかが出発点
[録音スタート]の選択で生徒が音声(ポッドキャスト)を録音
スプレッドシートとの連携で、振り返りの音声をすぐに確認
書くことが苦手な生徒も話すことで取り組みやすく。自分の成長や感情も振り返りやすい

AIはツールで、「人間ならでは」の領域が大事

 4人の教員の発表後は、Google for Education 認定トレーナーの川邉貴英氏を交えたクロストークが展開され、開発の苦労や教育の本質に迫る議論が行われた。

発表後のクロストークで議論を深めた

 アプリ開発における試行錯誤について、徳田氏は「問いを共有する画面と振り返り画面をどう共存させるか悩み、何度も作り直した。その中で『授業モードを切り替える』という発想をGeminiから得られた」と、AIとの共創を振り返った。

 後藤氏は、「動作が重く、Geminiと何度もやりとりしてコードを最適化した」と語りながらも「AIにあえて頼らない領域」を説明。吉村氏は「AIが振り返りを綺麗に読み上げると意味がない。生徒が録音中に言いよどんだり、沈黙したりするその瞬間にこそ、本当の感情が残る。そこは AIに介入させてはいけない領域 だ」と付け加えた。

 さらに後藤氏は「何が良い振り返りなのかという価値基準を示し、生徒の言葉をつなぎ合わせるのは教師の役割で、教師の生身の言葉で行うべき」と、教員の専門性を強調した。徳田氏も「評価や最終的な生徒への対話・フィードバックを大事にすべき。 AIはあくまでそれを引き出すためのツール 」と指摘している。

 「毎時間の振り返りは負担にならないか」という会場の質問に対し、徳田氏は「義務で書かせるのではなく、 心が動いた瞬間に『残したい』と思わせる授業をどれだけ作れるかという、教師の勝負 だ」と述べ、授業設計の重要性を説いている。吉村氏は「人生で一番振り返ったのは彼女に振られたとき。それくらい心が動く瞬間を作ることが大事」とユーモアを交えて語り、会場を沸かせた。

校務効率化と学校組織のデザインを変える視点

 後半の発表では「よりよい学校をデザインする」のテーマのもと、校務や組織運営に焦点を当てた5名の教員が登壇した。

 「ICTが苦手だった」と語る札幌新陽高校の号刀悠貴氏は、 大学の募集要項をGemini Notebookに全て読み込ませ 、即座に最適な進路情報を引き出せる仕組みを作成。夏休み前の進路指導で利用した。保護者からは「相談した内容に関し、すぐに資料をもらえてありがたい」との声が寄せられたという。

「その進路指導、本当に担任次第でいいのか」を発表した札幌新陽高校 教諭 号刀悠貴氏
同じ生徒でも担任で進路指導の結果が変わる現実
北海道にある全大学の募集要項のリンクをGemini Notebookに読み込ませる
希望する大学の資料をリクエスト
1時間ほど作業するだけで、比較マトリックスの制作も可能

 2番手に登場した金蘭会高等学校・中学校/札幌新陽高等学校の尻江重幸氏は、Google Workspace Studioを活用し、教員の思考プロセスを学習させた 「分身AI」による面接練習システム を紹介した。面接後のフィードバックは、Geminiが自動でマインドマップ化してドキュメントを作成する仕組みで、AIが教員の分身となることで生徒が教員と同じ目線で質問できる。

金蘭会高等学校・中学校/札幌新陽高等学校 教諭 尻江重幸氏は、教員の思考プロセスを学習させた「分身AI」による面接練習システムを紹介
GeminiのGem(特定の目的や役割に特化したAIアシスタント)を使って面接対策
Gemini Notebookで教員の頭脳となる「面接練習Gem」を作成し、「質問生成Gem」のほか、フィードバックを構造化
面接練習のマインドマップを作成
質問がブレないようにGemini Notebookを活用し、Workspace Studioを活用して情報を整形

 近畿大学附属豊岡高等学校の奥田幸祐氏は、学校にある膨大な情報をAIが自動で仕分けし、生徒の特性に合わせて「今やるべきこと」を提示する「スマートスクールコンシェルジュ」を提案した。Google Classroom上で情報過多を解消し、 生徒一人ひとりに最適なタイミングで必要な情報を届ける ことで、自律的な学びを支援する仕組みだ。

「スマートスクールコンシェルジュ」を発表する近畿大学附属豊岡高等学校 教諭 奥田幸祐氏
学校にあふれる膨大な情報をAIが自動で仕分けし、生徒に必要な情報だけ届く
教員がアップロードした資料をAIが分析。属性から情報をGoogleドライブに分類
Googleドライブに格納した情報について、最適なタイミングでAIが生徒のスマートフォンに情報を配信
生徒は「今日やること」がすぐにわかる

 タイトルで注目を集めたのが、大商学園高等学校の中村天良氏が発表した「 頑張っている人の見える化大作戦 」である。業務ログや日報をAIで分析し、「頑張っている先生」を可視化する仕組みだという。中村氏は、一部の教員に負担が偏りやすい構造を解決し、組織全体でDXの恩恵を享受できる環境作りを提言した。

大商学園高等学校 教諭 中村天良氏は、「頑張っている人の見える化大作戦」を発表
テーマは「頑張っている人の見える化大作戦」
簡単なプロンプトで業務日報を作成できる
頑張っている人を可視化
日報を3日間出していない先生には、教頭面談の設定が可能

 飯塚市立菰田小学校の外崎顯博氏が発表した「Geminiアイデア村」は、自治体や学校単位で安心して教材やプロンプトを共有できる、Googleサイトを活用したプラットフォーム。“アイデア村”は今回のイベント名の「アイデアソン」ではなく「アイデアむら」と読む。一人の優れた実践で終わらせず、みんなで悩み、 お互いのアイデアを使い合える、温かい「村」のようなコミュニティ が重要だとした。

「Geminiアイデア村」を発表する飯塚市立菰田小学校 教諭 外崎顯博氏。読み方は「アイデアソン」でなく「アイデアむら」
Googleサイトのデータをコピーして利用可能
Geminiアイデア村にある「小学校Geminiプロンプト集」
自分用の「村」を作る方法が説明された
Geminiアイデア村をコピーして自分の「アイデア村」を作れる

教師自身の腕を磨くことが重要

後半のクロストークでは、AI導入に伴う「安心・安全」や「教員の専門性」が焦点となった。

Gemini for Education アイデアソンでの気付きについて、和気あいあいと意見を交わす登壇者

 川邉氏が「校内での普及に何が大切か」と投げかけると、号刀氏は「チャットでURLを送るだけではダメ。 一緒に勉強する場を設定することが、苦手な教員を置き去りにしないコツ 」と指摘。外崎氏は「管理職がやりたいと言ったことを、AIで具体化することで、トップダウンで広がりやすくなる」と語った。

 一方、安全性と責任について、奥田氏は「AIが出した情報に対し、最後は人間が確認して、責任をきちんと持てるかどうかがすべて。 人間中心の原則を忘れてはいけない 」と指摘。中村氏も「仕組みがしっかりしていても、不注意によるヒューマンエラーは起こる。仕組みを過信しないことが重要」と奥田氏の考えに同意した。

 議論はAI時代の教師のあり方に及んだ。尻江氏は「 AIは楽をするためではなく、質を高めるために使う もの。ファクトチェックのためには、教員が圧倒的な専門知識を持っていなければならない」と強調すると、号刀氏も「AI活用そのものも、専門性を高める研鑽の一環であるべきだ」と語り、AI時代だからこそ教師自身の「腕」を磨くことの重要性を再確認する場となった。

教師自身の「腕」を磨くことの重要性を再確認

9人の登壇者が語る、これからの教育

 最後には締めくくりとして、今回のアイデアソンを通じて得た学びと、これからの教育への決意が登壇した教員から語られた。

 トップバッターを務めた徳田氏は「解決策は無限にある」と生成AIが切り拓く可能性に触れつつ、技術を導入するだけでなく、 学校内で対話し、お互いを支え合える状況を作ることが最善 であると振り返った。

 これに呼応するように後藤氏は 「これやってみよう」というポジティブな発想を持ち続けることの重要性 を強調。特別支援教育の視点から登壇した徳永氏は「テクノロジーは困っている人を助けるためにあるもの」と改めて実感したとし、異なる背景を持つ教員同士がアイデアを出し合う「創発」の価値を語った。

 奥田氏は、各地の教員が持つ「課題を解決したい」という思いに刺激を受けたとし、アイデアの共有が教育を良くすることへの願いを込めた。組織内の課題解決を指摘した中村氏は、 踏み込んだ議論ができるアイデアソンそのものを評価 。外崎氏は「発表者側が一番学んで得をしている」と述べ、自身の職場や地域で発信にチャレンジすることの意義を説き、アイデアソンを締めくくっている。

正田拓也