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男性育休は「取るだけ」では不十分、積水ハウスの調査で見えた「心のワンオペ」の実態

男性の育休取得は増えたものの、「心のワンオペ」が新たな課題

 積水ハウス株式会社は2026年9月17日、男性の育児休業取得推進プロジェクト「IKUKYU.PJT 2026」の発足および、全国の未就学児・小学生の子供を持つ保護者を対象とした意識調査「男性育休白書2026」の発表会を開催した。当日は厚生労働省や賛同企業の担当者も登壇した。

 厚生労働省の調査によると、日本の男性の育休取得率は50.9%に達し、2人に1人が育休を取得する時代を迎えた。今回の発表会では、取得率50%突破のその先に焦点を当て、家事・育児に伴う精神的な負担が一方に偏る「心のワンオペ」の実態や、夫婦間のコミュニケーションの重要性などが紹介された。

「男性育休白書2026」発表会の登壇者。大阪市北区の積水ハウス本社で開催された

男性育休の次の課題は「心のワンオペ」、解消のカギは夫婦の対話

 積水ハウスは9月19日を「育休を考える日」として記念日に制定している。今回の発表会では、積水ハウス ダイバーシティ推進部長の横山亜由美氏が「男性育休白書2026」の調査結果を紹介するとともに、同社の取り組みや男性育休取得率50%突破後の課題について説明した。

「男性育休白書2026」について説明する積水ハウス ダイバーシティ推進部長の横山亜由美氏

 積水ハウスでは2018年9月から、男性社員の「1カ月以上の育休完全取得」を推進している。最初の1カ月を有給とし、最大4回までの分割取得を認める制度を設けており、2026年8月末時点で育休の取得期限を迎えた対象者2,831人全員が1カ月以上の育休を取得。2019年2月以降、取得率100%を継続している。

積水ハウスでは、男性育休取得率100%

 積水ハウスが独自に設定した4つの指標をもとに算出した「男性の家事・育児力全国ランキング2026」では、高知県が179点で3年ぶり3度目の全国1位となった。2位は福島県(176点)、3位は栃木県(175点)だった。ランキングは、「女性から見た夫の家事」「育児実践数、関与度、育休取得日数」「家事・育児時間」「男性の幸福度」の4つの指標を数値化したものになる。

 発表会では、1位となった高知県の取り組みも紹介された。高知県知事の濵田省司氏のコメントを交えながら、県庁が率先して取り組む「隗(かい)より始めよ」の精神や、事業者向けの奨励金制度など、行政による施策が成果につながっていることが説明された。

都道府県別の「男性の家事・育児力全国ランキング2026」
積水ハウスが独自に設定した4つの指標

 また、積水ハウスの調査によると、未就学児と同居する男性の育休取得率は39.6%(前年比3.3ポイント増)、平均取得日数は27.2日(同5.7日増)となり、いずれも前年を上回った。

 2019年からの8年間の調査結果を比較すると、男性の家事・育児への関与度(自己評価)は47.1%から79.3%へと32.2ポイント上昇した。妻からの評価も50.9%から63.9%に上昇しており、子供と接する時間の増加や保護者同士の交流など、育休の「質」にも前向きな変化が見られた。

未就学児と同居する男性の育休取得率は39.6%、平均取得日数は27.2日
男性の家事・育児関与度は大幅上昇

 一方、男性の育休取得率が上昇するなか、新たな課題として指摘されたのが「心のワンオペ」だ。皿洗いやゴミ出しといった目に見える家事だけでなく、「子供の予定を把握する」「忘れ物がないように準備する」「家族の体調や機嫌に気を配る」など、目に見えない家事・育児の負担が一人に偏り、精神的な孤立につながることもあるという。

見えない家事などの認識に男女差

 同調査によると、子供のスケジュール把握や体調変化への配慮など、「見えない家事・育児」に負担を感じている割合は、女性が74.5%、男性が52.3%と22.2ポイントの差があった。

 また、子育てで孤独を感じた経験がある人の割合も、女性が67.7%、男性が35.4%と約2倍の差があり、女性に精神的な負担や孤立感が偏っている実態が浮き彫りになった。

 こうした「心のワンオペ」を解消するカギとして、白書では、育休を取得するだけでなく、パートナーと日常的にコミュニケーションを取ることの重要性を指摘している。

夫が育休をとるだけでは解決しない
パートナーとの日常的なコミュニケーションが重要

 パートナーと十分に対話できている家庭ほど、子供の体調管理や学校・習い事のスケジュール把握といった「見えない家事・育児」を夫婦で共有できている割合が高いことがわかった。

 そのため、積水ハウスでは、育休取得の計画を立てる際に「家族ミーティングシート」の提出を義務付けており、見えない家事・育児についても、事前に夫婦で分担を話し合う仕組みを整えている。

 同社の社内アンケートでは、「見えない家事・育児」に負担を感じている割合は男性社員が43.7%、その妻が56.0%となり、一般の育休取得家庭(男性57.6%、女性68.4%)と比べて、それぞれ13.9ポイント、12.4ポイント低い結果となった。

積水ハウスでは育休取得計画時に「家族ミーティングシート」の提出を義務付け
積水ハウスでは、一般の育休取得家庭より、見えない家事・育児への負担感が少ない

制度や取得率だけ見るのではなく、子供の幸せに貢献したい

 続いて、積水ハウス 執行役員 ESG経営推進本部長の山田実和氏が登壇し、男性育休の普及を踏まえた今後の取り組みについて説明した。

積水ハウス 執行役員 ESG経営推進本部長の山田実和氏

 積水ハウスは「我が家を世界一幸せな場所にする」というグローバルビジョンを掲げ、2018年から男性社員の1カ月以上の育休取得を推進している。2019年2月以降は取得率100%を継続しており、同年には9月19日を「育休を考える日」として記念日に制定。社会全体で男性育休を推進する「IKUKYU.PJT」も開始した。8年目となる2026年は、過去最多の195企業・団体がプロジェクトに賛同した。

「我が家を世界一幸せな場所にする」というグローバルビジョン
男性の育休取得があたりまえへ
2026年の「IKUKYU.PJT」に過去最多となる195の企業・団体が賛同
日本の男性育休取得率が50%を超えたが、通過点に過ぎない

 山田氏は、日本の男性育休取得率が50%を超えたことについて、「男性が育休を取得することは、以前よりも確実に身近な選択肢。まずは取得を、と呼びかける段階から、社会全体でその質やその先にある家族の暮らしを考える段階へと視点も変わりつつある」と指摘した。

 また、育休取得率はゴールではなく、通過点に過ぎないと強調。「私たちが大切にしたいのは、制度や取得率だけを見るのではなく、その先にいる家族、特に子供たちの幸せ」と述べた。さらに、「子供たちの幸せに貢献するキッズファースト企業として、日々の暮らしの中で様々なことに心を動かし、『好き』『やってみたい』と思える経験を重ねていくことも大切にしたい」と語り、子供の感性を育む取り組みにも力を入れていく考えを示した。

厚労省は「共育プロジェクト」で職場も家庭も脱ワンオペを目指す

 厚生労働省からは、雇用環境・均等局職業生活両立課長の上田真由美氏が登壇し、男性の育児休業取得に関する最新データや、同省が新たに推進する「共育(トモイク)プロジェクト」について説明した。

厚生労働省 雇用環境・均等局職業生活両立課長の上田真由美氏

 上田氏は、2026年7月末に公表された「令和7年度雇用均等基本調査」において、男性の育休取得率が50.9%に達し、2025年までに50%とする政府目標を達成したと説明した。

 一方、女性に比べて男性の育休取得期間が短いことや、家事・育児を夫婦で半分ずつ分担したいと希望する人が約4割いるのに対し、実際に実現できている人は約2割にとどまるなど、理想と現実に隔たりがあることを課題として挙げた。

男性の育休取得率が2025年に50%という政府の目標を達成
男性の育休期間の短さや負担率に課題

 調査では、希望する働き方と仕事・育児の両立を実現できている家庭ほど、パートナー間で勤務予定や繁忙期を共有したり、家事・育児の分担について定期的に話し合ったりしている傾向が見られた。上田氏は、職場に求められるサポートについても、「業務量の適正化だけでなく、制度として本当に使いやすい環境づくり、土壌の育成というものが非常に大事な状況となっている」と述べた。

 こうした背景を受け、厚生労働省は「イクメンプロジェクト」の後継として「共育(トモイク)プロジェクト」を始動した。職場と家庭の双方で「脱ワンオペ」を目指し、家事・育児の実務や精神的な負担を可視化する「トモイクシート(Web版)」を公開。また、育休取得前や復帰時に夫婦で話し合うべきポイントをまとめた「企業版両親学級」の動画・教材コンテンツを公式サイトで提供している。

「共育(トモイク)プロジェクト」として「トモイクシート(Web版)」を公開
「企業版両親学級」として動画・教材コンテンツも提供

ANAホールディングスや日本総合研究所が事例を紹介

 今回の発表会では、「IKUKYU.PJT 2026」の賛同企業も登壇し、男性育休の推進に向けた取り組みを紹介した。

 ANAホールディングス株式会社 グループDEI推進部 リーダーの橋本昌樹氏は、航空インフラを支える現場での男性育休の推進や、育休取得の浸透による職場風土の変化について説明した。

ANAホールディングス株式会社 グループDEI推進部 リーダーの橋本昌樹氏

 ANAグループでは、子供が生まれた男性社員を対象に「1年以内に3日以上の育休取得率100%」を目標に掲げ、2025年度に達成した。さらに、平均育児休業取得日数は70.5日に達し、取得者の約4分の3が28日以上の育休を取得している。

 橋本氏は、職場風土の変化について「5年前ですと、男性が育休を取りたいと言ったら上司から『なんで?』『どうやって手続きするの?』という状況だったが、今ではどちらかというと男性上司の方から『育休とらないの?』という会話が日常的に自然発生する環境になってきている」と述べ、男性の育休取得が職場で当たり前になりつつある様子を紹介した。

ANAホールディングスの男性育休取得率は100%達成
男性育休取得により「属人化の排除」を推進し生産性向上にもつながる

 また、長期不在による業務への影響を懸念する声に対しては、早い段階から業務の棚卸しやマニュアル化を進め、特定の社員に業務が集中しない体制づくりを推進。こうした取り組みが、職場全体の生産性向上や業務改善にもつながっているという。

 さらに、社内意識調査「ANA's Way Survey」では、「働きやすい職場・風土がある」のスコアが過去最高を記録した。橋本氏は、育休取得を互いに支え合う「お互い様」の意識が広がることで、職場の心理的安全性が高まり、育休取得者だけでなく、周囲の社員のエンゲージメント向上にもつながっていると説明した。

 賛同企業の2社目の事例は、株式会社日本総合研究所 ダイバーシティ経営推進室長の亀山典子氏が登壇。同社における男性育休取得率の大幅な伸びと、育休を取得しやすい職場風土づくりについて発表した。

株式会社日本総合研究所 ダイバーシティ経営推進室長の亀山典子氏

 同社では、ここ数年で男性の育休取得率が40%台から94%台へと大幅に上昇し、平均取得日数も30日台から60日台へと伸びた。亀山氏は「ここ数年でできたことでは決してなく、約20年をかけて機運を作ってきました」と語り、2005年の次世代法施行を契機とした取り組みや、2009年の公募型プロジェクトで社員が提案した「2週間育休」、社内報「W-ish」での事例発信、SMBCグループと連携した『チーム育児ハンドブック』の作成など、長年にわたる取り組みを紹介した。

日本総合研究所の男性育休取得率が急上昇、取得日数も倍増
2005年から約20年をかけて男性育休の機運を醸成

 亀山氏は、賛同企業アンケートに寄せられた社員の声として、「女性との勤務条件の格差が是正されてきた」「互いへの声かけが増えた」といった変化を紹介した。また、「リーダーが育休で不在になり、メンバーが一段上の仕事を担い成長した」という事例を挙げ、育休取得が社員の成長にもつながっていることを説明した。今後については、「属人化しない業務運営や計画的な育休取得を当然の流れとして定着させていきたい」と展望を語った。

 男性の育休取得率が50%を超え、取得すること自体は着実に広がりつつある。一方で、家事・育児の分担や「心のワンオペ」など、取得率だけでは見えてこない課題も残る。今回の発表会では、育休を取得しやすい職場づくりに加え、家庭での対話や役割分担の重要性が改めて浮き彫りになった。男性育休を単なる制度利用で終わらせず、家族と職場の双方にとってよりよい変化につなげていくことが、次の課題といえそうだ。

正田拓也